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#81 - 2016-06-04 08:57:00 UTC
アップウェルの警備責任者がアウターリングとシンジケートを視察
2016-05-30 13:16 スコープ、リナ・アンバー

4C-B7X発-アップウェル・コンソーシアム『友好と相互援助』局(DEFMA)の責任者であるラース・アン・ラモンが、アウターリングとシンジケートのアップウェル関連施設を視察している。サーペンティス社や敵対的カプセラといった辺境宙域の脅威が消えないなか、アップウェルの警備状況には疑問の声が高まっており、氏の動向には大きな注目が集まっている。

アン・ラモン局長が公の場に姿を現すのは今回が初めてのことだ。彼の経歴については多くは明らかになっておらず、連邦海兵隊で軍務に服したのち、連邦海軍において将校として勤務、その後クルクス・スペシャルタスクグループで「プロジェクトリーダー」を務めたとされている。

ラース・アン・ラモンがアップウェルの警備責任者の地位を与えられている事実に、ガレンテ政界からは苦言も呈されている。その背景にあるのは、OREがサーペンティス社の支配下に置かれるよりも前、ガレンテ連邦とOREが対立関係にあった過去だ。ある元老院関係者がスコープに語ったところによれば、アン・ラモンが民間で働きはじたのは、反抗行為によって密かに除隊処分に処されたためだという。彼の連邦軍における軍歴は機密情報扱いのため、スコープはこの証言が事実かどうかを確認することはできなかった。

先日の特別報告でも伝えたとおり、エンジェルカルテルやサーペンティス社などの反社会的勢力が主力艦建造、配備計画を進めており、アップウェル・コンソーシアムの警備体制の質が改めて問われる状況となっている。
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#82 - 2016-06-04 11:45:57 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
傭兵企業がシャンデイルから撤退、カプセラの支援でジンメイ内戦が停戦へ
2016-06-01 13:55 スコープ、リナ・アンバー

シャンデイル(リアサトン5)発-ジンメイ人の故郷、リアサトン星系第5惑星「シャンデイル」は数十年におよぶ内戦状態にあったが、この長い戦いが終わりを告げた。サンドゥ階級の家々が資源豊富な赤道地帯での停戦を宣言し、現地には不安定ながらも平和な状態が訪れている。紛争終結に向けて長期的に取り組んできたガレンテ連邦の交渉担当者らは、最近行われた「ビロア会議」…カプセラ達による平和と人道支援の呼びかけ…が停戦を後押ししたと考えている。

内戦は激化と沈静化を繰り返しつつ、数十年にわたって続いてきた。だが、ここ数年は星間傭兵企業がサンドゥの君主たちに様々なサービスを提供し、惑星中央地帯の資源採取権をめぐる戦いは一層激しさを増していた。停戦が実現したもう1つの要因は、複数の大手傭兵企業が突然この紛争から手を引いたことにもあるだろう。先週、インタラ・ダイレクトアクション社、オストラコン・エージェンシー、セイカル遠征部隊などの民間軍事部隊は、連邦軍所属の特殊部隊が出動しているとして、契約内の「当局との競合禁止」条項を発動し、戦闘から離脱した。

連邦情報局は紛争に対する一切の介入行動を否定し、シャンデイル内戦はジンメイ政府および自治体が処理すべき内的問題だと明言している。実際のところ、現地自治体には何の執行力もなく、これは全ての問題をサンドゥ階級の好きなように処理させると言っているにすぎない。シャンデイルではインタラ、オストラコン、セイカルのような悪名高い傭兵部隊を雇っていた「繁栄推進派」と、赤道一帯の君主から成る「連帯派」が衝突していたが、後者で実質的な指揮をとっていたのはいまだ現地に留まっている傭兵企業、特にカンロー総局やナムター・エリートといった組織ではないかと連邦軍関係者は示唆している。

なんにせよ、停戦がシャンデイルの人々を大いに安堵させるのは間違いない。赤道地帯の住民は過去数年間の紛争だけでも、あまりに多くの死と破壊に苦しめられ、土地を追われてきたのだから。
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#83 - 2016-06-05 10:03:38 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
真実の話し手(The Speaker of Truths)

[img]https://web.ccpgamescdn.com/communityassets/img/chronicles/chronicleImage/speaker.jpg[/img]

引きずっていかれた2人の娼婦が鞭打たれて泣き叫び、彼女たちの赤ん坊を引き裂くために取りあげたとき、アリッツィオは満足げに玉座へ体を沈めた。

「帝国の相続人という地位は、実に良いものだな」彼は傍らにたたずむ軍事顧問にむかって小さな声で呟いた。軍事顧問は痩せた男で、体にぴったり合った服をまとっている。玉座の反対側には宗教顧問も控えていて、彼女は頭の上で髪をきつく結い、2本の金色のミニチュアの槍で留めていた。

軍事顧問はうなずいて言った。「次の陳情者が参っております、殿下」

「おお、そいつは楽しみだ」

巨大な両開き扉がゆっくりと開かれた。青銅製のその扉は、あらゆる種類の宗教的象徴で飾られていた。見る者が予想するとおり、意匠はドリアム2世が熟考の末に考えだしたもので、両方の扉が彼自身の姿と治世における様々な出来事で埋めつくされている。扉は陳情者を招き入れるときのみ開かれ、すぐに閉じられるのが伝統だった。例外的に開いたままにされるのは、陳情者が宮廷から溢れるほど多い場合のみだ。だが、陳情者が訪れることは滅多になかった。今日びアリッツィオに運命を委ねようとする者など、銃を突きつけられて無理強いされた者くらいしかいない。一応はアリッツィオの沙汰を拒むこともできるが、すぐに処刑されるのは目に見えている。

若い男がためらいがちに入ってきた。男は貴族らしい格好をしていたが、髪はボサボサで、目の下には暗いくまができていた。

「貴様、見覚えない奴だな」アリッツィオが言った。

男はアリッツィオの前にひざまずき、「私はファジアン・シャラーフと申します。殿下にお目にかかるのは今日が初めてです」

「それで何を申し立てたいのだ」

ファジアンは顔を上げた。「殿下、私は…」

窓の外から響いてきたかすかな騒音に、ファジアンは一瞬気を取られたが、すぐに言葉を続けた。「殿下、私は破滅の淵にあります。財産は没収され、銀行口座も凍結、すべての事業が操業停止を命じられました」

アリッツィオはうっすらと笑みを浮かべた。「何故そうなったのか?」

「私めは…その…正直に申し上げますと、ひどく酔った末に過ちを犯してしまったのです。セルード・サケクー様について、極めて無礼な言葉を口にしてしまいました」

軍事顧問が身を乗りだし、主人に囁きかけた。「セルード・サケクーは宰相府の大物です」

アリッツィオは眉を上げて尋ねた。「極めて無礼な言葉だと?」

「左様です、殿下。本当に礼を失していました」

「ここでもう一度口に出してみるつもりはないか?」

ファジアンは聞きとれるほどの勢いで息を呑んだ。「畏れ多いことですが、それだけはご容赦ください。サケクー様が身につけていらっしゃる額の飾りがどう見えるか…ただそれだけの話でした。しかし、もう二度と口にするわけには参りません」

「結構。それで良いのだ」アリッツィオは面白そうに指を振りながら言った。「1つ教訓を得たということだからな」

「私にとっては日々が教訓の連続です、殿下。しかし今は心の底から後悔して、生きるために足掻いております。誰も金を貸してくれず、友人縁者からも援助を断られ、このままでは子供たちを養うことさえできません。殿下、お願いでございます、どうかお力添えいただけないでしょうか」

アリッツィオは宗教顧問のほうをチラリと見た。「どう思う、お前? この男のために執りなしてやるべきだと思うか?」

「臣は殿下が正しき判断を下されるものと確信しております。いつもどおりに」彼女は諦めたような口調で答えた。

その答えに明らかに満足した様子で、アリッツィオは破滅しかけの貴族へ向きなおった。「宰相府にとっては軽いお仕置きだったのだろうがな。私はここに宣言する。貴様の銀行口座の凍結は解かれ、財産は返還されるか、あるいは没収者によって相応の金額で払い戻される。第三者が必要と認めるあらゆる償還請求を通じ、貴様の名誉と地位は回復されるであろう」

ファジアンは再び崩折れた。「ああ、ありがとうございます、殿下。なんとお礼を申し上げればよいのか。この御恩は生涯忘れません」

「そうだ、貴様は一生覚えていることになるだろう。立つがいい。この一件から礼儀と慎みを学んだと信じているぞ」

「確かに肝に銘じます、殿下」感謝の念をいっぱいに表しながら、ファジアンは立ち上がった。「お慈悲に感謝いたします」

「礼には及ばん。だが、この教訓を確実なものにするため、貴様の唇を切り落とすことにする。次の陳情者を呼んでこい」

ファジアンは自分が耳にした言葉が信じられず、唖然としていた。アリッツィオ・コルアゾールの裁きを受けた者の一般的な反応だ。が、すぐに衛兵に引っ立てられ、彼を引きずり出すために扉が開いた刹那、外から鈍い轟音が入ってきた。

「何の音だ?」アリッツィオは尋ねた。

軍事顧問はかすかに肩をすくめた。「ご心配には及びますまい」そう言うと、軍事顧問は部下を見やり、意を受けた衛兵が部屋の隅の小さなドアから出て行った。

青銅の扉が開きはじめた。

「殿下、次の陳情者は黙劇の道化師で…」

「そいつの舌を切り落として食わせてやれ。次!」

扉は再び閉じられた。

軍事顧問が送り出した部下が戻ってきた。衛兵は軍事顧問に何事かを耳打ちし、彼も早口で囁き返したが、アリッツィオによって遮られた。

「何か私が処理すべき問題が起きたんじゃあないのか?」

「いえ、決してそのようなことは」軍事顧問は答えた。「しかし、少々特別な来客があったようでして」

「なに?」

「<真実の話し手>です」

宗教顧問は凍りついたが、何も言わなかった。

外の轟音はもはや無視できないほどになっていた。まるで宮廷を洗い流そうとする津波のようだ。衛兵たちはしっかりと持ち場を守っていたものの、心配そうに顔を見合わせた。そして扉の外から聞こえてくる音は、悲鳴でもなければ絶叫でもなく、雑音の奔流と化していた。まるで、今にもその最初の波が流れこんでくるのではないかと思わせるような。

扉が無数の拳に叩かれ、何千というノックの乱れ打ちが巻き起こった。

アリッツィオは玉座のなかでわずかに身じろぎした。「扉を開けたほうがいいと思うのだが」

扉が動き、おびただしい数の群衆の姿が見えると、衛兵たちは武器に手をかけた。だが、軍事顧問が手を上げて部下を制した。「まだ待て」

群衆から小柄な人影が進み出て、部屋へと入ってきた。伝統的な高級聖職者のローブをまとった、干からびた灰色の老人。彼は先端が円形に渦を巻いた高い杖によりかかりながら歩み寄ってくる。

「<真実の話し手>…」宗教顧問が畏敬の念をたたえた声を出した。

「どうか気を楽にしてくだされ」老人は優しげに微笑みながら、彼女に言葉を返した。「ここを訪れるのは、おお、少なくとも1世紀ぶりになるのう。どうせなら非公式な立場で来られればよかったのだが。しかし、拙僧とともに来た者たちを見れば分かろうが、まことに深刻な問題を扱わなければならなくなったのでな」

老人の言葉とともに、群衆から何人かが進み出た。全員が宮廷に入ることを認められた貴族たちだった。法によって定められているので、帝位継承権者といえども貴族を追い返すことはできないが、いったん扉をくぐってしまえば、あとは追い出すもどうするも宮廷の主の自由だ。

20人余りの貴族が<話し手>を半円形に取り囲んだ。どの顔も玉座のほうを向き、アリッツィオを見つめている。扉は伝統に従って開かれたままとなり、群衆のなかにはビデオカメラを携えている者もいた。帝位継承権者に対する敬意の証としてレンズは手で覆っているが、マイクは何も聞き漏らすまいと動き続けている。

「いったい何の騒ぎだ?」アリッツィオは言った。「貴様は何故ここにいるのだ?」

「拙僧もここにいることを驚いております」<話し手>は答えた。「我が旅を早々に終わらせようとする輩もおりましたゆえ」

「質問の答えになっていないぞ」

「そうですな、確かに答えになっていません。しかし、殿下は既に拙僧の質問に答えてくださいました」

「どういうことか説明しろ」

「よろしい」<話し手>は背後の人々を手振りで示した。「ここにいる男たちと女たちは、正当な苦情を訴えるために集まっております。廊下に控えている者たちも同じ。宮廷の外で待っている者たちも同じ。皆、拙僧がここを訪れると聞きつけて従ってきたのです。殿下、拙僧は長い道のりを旅してきましたが、旅路は危険に満ちていました。多少の苦難は予期していましたが、まさかこれほどとは思いませなんだ」

彼はいったん言葉を切り、さらに玉座へ近づいた。そして、失われた魂の帰還を歓迎するかのように、あるいは魂の追放を宣言するかのように、両腕を広げる。<話し手>の声は大声とは呼べなかったが、はっきりと響いていた。レコーダーの稼働音や、宮廷の外から聞こえてくる低い騒音を別にすれば、彼の声はその場で唯一の音だった。「殿下、拙僧がここにいる理由は実に単純です。儂はあなたを殺すために来たのだ」

誰も何も言わなかった。何秒かのあいだ、息さえ止まる沈黙が流れた。

沈黙はやかましい音によって破られた。窒息しそうな甲高いクスクス笑いから始まり、やがて耳障りな低い笑いとなり、最後に馬鹿笑いへ変わった。アリッツィオはあまりに激しく笑いすぎて、もう少しで玉座から転げ落ちるところだった。「貴様が?!」アリッツィオは吠えるように<話し手>へ叫んだ。「ご老人、どうかしているぞ。貴様は完全に狂っておるわ!」

「それはそれとして、ここにいるのは拙僧だけではありませんからな」<話し手>はまったく落ちついた声で応じた。

アリッツィオは真剣な表情を取り繕おうとしたが、結局失敗した。「で、貴様を送って寄越したのは誰だ?」

「何を…他ならぬ殿下ご自身です」

「何だと? おお神よ、こいつはますます傑作だ」

<話し手>は人々のほうを向き、彼の右手に立っていた男を示した。「この者はラクバン・ヴェネグと申します。彼の父親は盗みを働いたかどで死罪となりましたが、それを証言したのは誰も知らない男でした。男のことを知っていたのはあなただけです。隣りにいるのはスキ・ナターサ。彼女の息子は宮廷の庭の木に凧をひっかけたため、拷問にかけられました。その子は今では毎日壁を見つめて過ごしています。向こうにいるのはエトゥ・ガッサ。あなたは彼女の美貌に目をとめ、その美しさを彼女自身が独り占めしてはならないという理由で、毎日正午に宮廷の中庭で裸になって踊るよう命じました。彼女を独占しようとした身勝手さを咎められ、彼女の夫も死を賜っております。この部屋、この宮廷、この一帯にいる者すべてが、あなたによって傷つけられたか、愛する者を傷つけられたのです。最後の1人に至るまで例外なくですぞ、殿下」<話し手>の言葉は静かで淡々としていたが、殿下と呼びかける声だけは、かすかに強調されているようだった。

「これを招いたのはあなた自身です」<話し手>は続けた。「儂がここにいるのも、あなた自身が呼び寄せたからなのです。たとえご自身がお気づきでないとしても。<話し手>は皇帝に次ぐ調停人であり、我々は我々が必要とされるところ、どこへでも赴きます」

<話し手>はわずかに身なりを整え、何が起きているかを告げた。「殿下、まさに今この瞬間、あなたの行為を償わせんとする人々が宮廷のまわりで軍を組織しております。はっきり言えば、彼らはあなたの血を欲しているのです」

「馬鹿を言え」アリッツィオは一蹴した。

軍事顧問も付け加えた。「殿下は畏れ多くも帝国の相続人であらせられます。平民はおろか、貴族といえども玉体を傷つけることは出来ません」

<真実の話し手>は軍事顧問へ冷たい一瞥を投げた。「実のところ、殿下、彼らにはそれが可能なのです」
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#84 - 2016-06-05 10:13:10 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
アリッツィオ達は言い返そうとしたが、<話し手>の言葉のほうが早かった。「あなた方が古い宗教法についてご存知かどうか…いや、実を申せば、ご存じないだろうと確信しているのですが。もし知っているなら我々が世俗問題に介入する機会などないはずですからな。その法によれば、被害者は加害者に対して、血と肉による償いを求めることができます。『目には目を』、『肉1ポンド』、『彼の目をえぐれ』などと」

宗教顧問が反駁した。「私たちもその法は存じています。太古の時代、怒れる神々の文言ですね。本件には何の関係もないと思いますが」

「ところが、関係あるのだ」<話し手>がさらに反論した。「何者かが正当な理由なく害され、帝国の調停人がその行為を有罪だと断じた場合、この賠償法は発動する。ここで言う調停人とは、まず皇帝を意味し、次に5皇家当主と一部貴族、そして<真実の話し手>を指しておる」

「結局、貴様は私をどうしようというのだ」アリッツィオが言った。

「彼にはどうすることも出来ません、殿下」宗教顧問が答え、彼女は<話し手>のほうへ向きなおった。「あなたは法の残りの部分に触れていません。賠償内容は身分差によって変わるはずです」

「確かに、そなたの言うとおり」<話し手>は認めた。「法によれば、不法な行いが正しく裁かれたとき、賠償内容は被害者と加害者の身分差を考慮したうえで決められる。加害者の身分が著しく高ければ、彼が削がれる肉は大きく減る。もし平民が皇帝に賠償を求めたとしても、皇帝の手の皮膚片より多くは得られんだろうて」

アリッツィオが噛みついた。「では何が問題なのだ? 外の連中がこぞって訴えたところで、貴様が手に入れられるのはせいぜい髪一束くらいのものだろう」

<話し手>は答えた。「彼らはあくまで拙僧に従ってきた者たちです。民の苦しむ声はご領地の至るところから届いております。あなたを怨む者はあまりに多いので、もし彼らが一度に訴え出れば、殿下は原子単位に分解されてしまいますわい」

だんだんと陰鬱な口調になってきていたアリッツィオは、宗教顧問のほうを向いて尋ねた。「こやつが言っていることは本当か? 本当にこやつは…この…この<真実の話し手>は…」アリッツィオはなんとか言葉を吐き出した。「こいつには裁判権があるのか?」

宗教顧問は何も言わず、ただ目を閉じたままうなずいた。

アリッツィオは軍事顧問のほうも振り返る。「確かか?」

顧問はぎょっとした。「いえ、臣には、これは、その…」

「答えろ。こいつには私を処刑するだけの力があるのか?」

軍事顧問は頭を垂れ、床を見つめたまま答えた。「…はい、殿下。臣は彼の者の言うことが事実だと考えます」

それを聞いて、アリッツィオは再度<話し手>に顔を向けた。「なぜ貴様に従わなければならんのか分からんな。衛兵に命じて、逆に貴様を処刑してやるというのはどうだ?」

「拙僧に手を出す者は破門されるだけでなく、歴代記から名を消されるでしょう。そうなれば、その者の生命と人格は無に等しくなる。殿下も例外ではございませんぞ。<話し手>の言葉に背くということは、同じく歴代記から抹消される危険を冒すのです。廃位され、特権を奪われ、罪や義務をまぬがれることもなくなる。そうなれば、殿下といえども芳しい結果が得られるとは思えませんな」

<話し手>は目をつむり、深く息をしてから結論を告げた。「そういうことです。これが、あなたが歩んできた道の最果てです。あなたが犯した罪が、あなた自身へと返ってきたのです」

「だから何だと言うのだ、たかが暴動にすぎん」

「暴動ではありません、殿下。これは革命です」

再び沈黙が降りてきた。今や、耳に入るのは外の騒ぎだけではなくなっていた。ビデオカメラの稼働音もはっきりと聞こえる。それが宮廷の外で待ち構えている民衆、そして領内の家々にこの様子を中継していることは疑いようもない。

軍事顧問が沈黙を破った。「我々は…どうにかして事を収めなければ。御当主が廃位されるにせよ、革命が起きるにせよ、いずれにしても御家が滅んでしまう。外の軍勢は…」彼は他の皇家には触れなかったが、誰もがすべての皇家を巻きこむ可能性を考えていた。「外の軍勢は我々を討ち果たすだろう。確かに御当主の統治は民衆の怒りを買うものだったかもしれないが、我々は何とかして彼をお助けしなければならない。何としても。もし反乱と弑逆を民衆の欲しいままに許せば、アリッツィオ様であろうが、他の誰であろうが、コルアゾール家は二度と帝位継承者を輩出することはなくなってしまう」

<話し手>は杖に寄りかかった。「それで、そなたは何を言わんとしておるのだ?」

「もしも…いや、私にも民衆が考えなおす可能性はないと分かっている」軍事顧問は続けた。「だが、少し説得することは出来ないだろうか?」

またも外から轟音。

「分かった、望み薄なのは認める」軍事顧問はすぐさま負けを認めた。「しかし、あえて言わせてくれ。民衆は本当に流血の惨事を望んでいるのか? ひとたび武器を手にとれば、経済はめちゃくちゃになり、やがて軍が出動するだろう。彼らは自分たちの生活どころか、命そのものまで賭すつもりなのか?」

「もはや民が思いとどまることはない」<話し手>は極めて冷静に警告した。「それは明白じゃ」

「なら、こうしよう」顧問は別の提案を持ちだした。「せめて最も重大な陳情を抱えている者たちに限らせてほしい。彼らにだけ復讐させるんだ。しかしお願いだから、コルアゾール家と御家につらなる人々のため、彼の命だけは」

「まぁ、それならいいだろう」アリッツィオが口を挟んだが、誰も聞いていない。

「民が認めるかどうか怪しいものだのう」<話し手>は軍事顧問の提案が妥当なものとは思っていないようだった。

「認めてくれることを願う。御当主が死なないにしても、彼が二度と顔を出さないよう私たちが処理するから」

「何だと?」アリッツィオは予想だにしない言葉に愕然とした。

軍事顧問は気にも留めず、言葉を続けた。「もし100万人が声を上げれば、私たちは彼の腕を切る。さらに100万人が声を上げれば、今度は足を切る。切って切って切りまくって、肉を裂き、血を流させる。ただし生きのびるのに最低限必要な部分だけは見逃してくれ」

「貴様、正気か?」アリッツィオの声は再び無視された。

「お願いだ。頼むから、御当主が生きながらえ、多少の務めを果たすための肉体は残させてくれ。言ってしまえば、領地を治めるのに腕や足が絶対必要というわけではないし、五感が完全でなくてもいいだろう。目が1つ、耳が1つ、あとは舌が少しと、歯と皮膚さえあればいい」

「そんな仕打ちは耐えられん」アリッツィオが言う。

そこで、やっと軍事顧問は主のほうを振り返った。「では、殿下はお命を落とすより他にありません。彼らはあなたを細切れにしようとしています」

「そうしようとしているのはお前ではないか」

「この方法なら、少なくとも一部は残せます。そこから残りの部分を再生成することもできましょう」

<話し手>が忠告した。「クローニングは禁じられておる。知っているとは思うが」

「それは本人が死んだときの話だろう」軍事顧問が言う。「私たちは彼を生かす。生かして、加速再生装置を使う。そうすれば私たちは法を犯さずに済むし、民衆も彼の肉を手に入れられる」

<話し手>が尋ねた。「そなたはそれで十分だと思っておるのか?」

「いや、正直言ってそうは思わないが」軍事顧問は答えた。

アリッツィオが2人の会話を遮った。「貴様ら、私がまだここにいるのを忘れるなよ」

軍事顧問はもう一度アリッツィオのほうを向いた。「殿下、心からの親愛と敬慕の念をこめて申し上げる。御家が革命の危機に瀕しています。このままでは殿下の首が落ちるのも時間の問題です。この状況をご理解いただけておりますでしょうか? どんな不満があっても、それを我慢しなければ殿下は死ぬしかないという状況を?」

アリッツィオは黙りこんだ。

軍事顧問は<話し手>へ向きなおった。「もし、これから彼の下す決断が満足いかないものだったなら、民衆は宮廷に入り、賠償を求めることができる」

「そして、それには生命も含まれる」<話し手>が付け加えた。

「生命も含まれる」顧問も繰り返した。「これで民衆は了解してくれるだろうか? 古き統治者は消え去り、新しい統治者が現れる。まったくの別人だ。あらゆる意味で、まったくの別人だ」

<話し手>がこの提案を吟味するあいだ、アリッツィオは一言も発しなかった。

「よかろう」ついに<話し手>は答えた。「うむ、民もこれなら受け入れよう」

押し寄せた民衆がふたたび叫び声をあげ、宮廷の床がびりびりと震えた。だが、今度は怒号ではなく、歓声だった。

***

アリッツィオは手術台の上に縛りつけられていた。天井にはビデオカメラが据えられ、外科医も額に小さなカメラを装着している。

外科医は電気メスを使い、ゆっくりと慎重にアリッツィオの皮膚を切り開いていく。流れだした血はすぐにプラスチック管に吸いとられ、透析機に流れこみ、そのままアリッツィオの肉体へと戻っていった。

麻酔は使われていない。アリッツィオはゴム製のマウスガードを革紐でくわえさせられ、額に青筋たてている頭をがっちりと固定されている。メスが少し動くたび、中継放送には耳障りなノイズが混じりこんだ。放送を見ていた人々は、初めそれは音声の乱れだと思っていたが、やがて正体がアリッツィオのしわがれ声だと分かった。喉から先には出ていかない、切り刻まれる帝位継承権者の絶叫だった。

外科医は切開部を瞬時に焼いて止血するため、時おりレーザーを使った。だが、レーザーを使えば神経も焼いてしまうので、民衆はそれが不満でならなかった。アリッツィオの肉体は鋼のメスで八つ裂きにされればいいと思われていた。

軍事顧問と宗教顧問が手術室までやって来ることもあった。彼らは主がバラバラにされるのを淡々と見守った。宗教顧問は手術が始まってから何一つ語っていない。軍事顧問も言葉少なだったが、内科医長や軍人などの関係者にアリッツィオが死なないことを理解させるため、短い静かな会話を交わしていた。アリッツィオは死なないが、死んだも同然の状態になるので、監視者と世話人たちは然るべき手順を踏んで彼を復活させなければならない。まずはコルアゾール家の当主を蘇らせることが第一で、彼の人格や宗教法云々は二の次である、と。

アリッツィオ自身もほとんど何も言わなかった。ここで必要とされているのは彼の肉体であって、彼の言葉ではなかった。

外科医はメスを洗い、カメラに向けてゆっくり話しかけた。「今、最後の指の皮膚を剥がしました。それでは腱に注目してください。次の作業に移ります」
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#85 - 2016-06-15 14:43:49 UTC
CONCORDはスコープ・ネットワークに独立放送ライセンスを発行
2016-06-10 17:32 インペタス、セレーネ・デュポンテ

オルボア発-今日、CONCORDはスコープ社と共同記者会見を開き、ニューエデン初の独立放送ライセンスを発行したと発表した。

会見はスコープ本社で行われ、通商保護委員会からは業務統括責任者ライド・フロイアーが出席。フロイアーはスコープ・ギャラクティック・ニュースネットワークが真に独立した報道機関として認可されたことを祝福した。

フロイアーはスコープがカプセラだけでなく惑星住民からも高い支持を受けていると述べ、同社は「星団全体の報道機関としてジャーナリズムの良心をまっとうし、報道内容は驚くほど多様性に富んでいる」と賞賛した。

祝賀の席にはリナ・アンバーとアルトン・ハヴェリの姿もあった。彼らは昨年からスコープの報道番組を担当しており、ニューエデン中に名を知られた有名人となっている。2人はそれぞれスコープで20年と35年のキャリアを積んできたが、今回、CONCORDは彼らの「ジャーナリズムと報道の分野における顕著かつ卓越した業績」を称え、民間人に贈る最高位の勲章、白銀星章を授与した。

コメントを求められたアンバーは、自分たちの成功について次のようにコメントした。
「何もかも夢のようです。スコープが最高のニュースソースであり続けるために懸命に働いている何万というスタッフ、そして同僚のアルトンのことをとても誇りに思います」

ハヴェリも喜びを露わにしながら、コメントの多くを同僚のジャーナリスト達のために割いた。だが、同時に「独立放送ライセンスの発行はスコープにとって素晴らしい飛躍」だと語り、「スコープで働けることをこれ以上なく誇りに思う。放送業界で長年過ごしてきたあと、彼女のような最高の同僚を得られたことに感謝する」とも話した。

スコープに新たな放送ライセンスが発行された事実から、同社はガレンテ連邦やガレンテのメディア業界から距離を置くと決断したのではないかと推測する声は多い。実際、このライセンスを得たことで、スコープ社が完全に独立した報道機関となる道が開けたのである。
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#86 - 2016-06-15 16:05:41 UTC
アップウェル・コンソーシアムがガレンテ連邦の憂事にコメント…サーペンティス社の軍備増強について
2016-06-14 16:55 スコープ、リナ・アンバー

アウアスレアト発-アップウェル・コンソーシアム幹部がサーペンティス社の軍備増強とエンジェルカルテルの活発化について警告し、ニューエデン全体の不安定化につながる可能性を示唆した。アップウェル提携企業の幹部役員はテックアップコン118…アウアスレアト6軌道上、チェマルテック社研究センターで開催された技術サミット…に出席し、ガレンテ連邦の諜報筋からもたらされた情報を引用しつつ、比較的率直に懸念を示した。

「私たちがこの件について憂慮しているのは間違いありません」テックアップコン118の公開討論会で質問に答えたのは、チェマルテック社のボセリナ・エノーCEOだ。「ニューエデンで最も歪んだ科学的思考の持ち主でありながら、豊富なリソースを擁しているサーペンティス社は、極めて強力な反社会的勢力です。これにエンジェルカルテルという実働部隊が加わります。さらに、彼らはカプセラ級の軍事技術の応用と改良を繰り返しており、現状はもはや現代社会の危機とさえ言えます。私はCONCORDがこの状況を直視してくれればと思うのですが、どうやら彼らにそのつもりはないようです。となると、もはや民間で自衛手段を講じるほかありません」

アップウェル・コンソーシアムの警備能力は、ここ数ヶ月にわたって社会の関心を集めてきた。なかでもカプセラ社会はシタデルに関係することもあって、アップウェルが防護能力を保証するようとりわけ強く求めてきた。コンソーシアム内の警備と相互協力は『友好と相互援助』局が担当しており、局長のラース・アン・ラモンは辺境宙域の視察から帰還したばかりだ。だが、アン・ラモン局長はテックアップコン118の非公開協議に出席していたにもかかわらず、一切のコメントを発表しなかった。

他のニュースでは、アップウェル提携企業、エンターテイメント大手インペタス社のルーン・イサトーCEOが、スコープ・ギャラクティック・ニュースネットワークの独立放送ライセンス獲得について楽観的な見方を示した。
「私は歓迎しますよ。インペタスはスコープを良きパートナーだと考えていますし、どちらも長年の取引関係から利益を得てきました。この先もきっと上手くいくでしょう」
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#87 - 2016-06-16 14:21:05 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
CONCORDがサーペンティス艦隊の戦力を調査中
2016-06-16 11:53 スコープ、リナ・アンバー

ユーライ発-CONCORD指令執行局(DED)がサーペンティス艦隊の戦闘能力を調査中だと発表した。これに先立ち、DEDは連邦情報局から反社会的企業の軍備増強に関する報告を受けていた。

DED関係者がスコープに語ったところによれば、彼らは積極的に調査を進めており、ニューエデン全域で警戒活動を強化しているものの、いまだサーペンティス社が「大型主力艦」を運用している痕跡を発見できていないという。

スコープは今回の発表についてDEDのオド・コラチ准将にコメントを求め、短い回答を得た。彼は大型主力艦の存在を確認していないとした上で、カプセラ達は自力でこの問題に当たるべきではないと語り、かわりにあらゆる異常な動きをDEDへ通報するよう要請した。

コラチ准将がDEDの活動を明らかにするのは珍しいが、これには連邦情報局から流出した未確認情報が影響している模様だ。その報告書には、サーペンティス社の軍備増強計画に「ザ・デスレス」という集団が関わっていると記されていた。「ザ・デスレス」の詳細は不明だが、報告書はこの集団がシャンデイルに展開していた傭兵企業に雇われていた事実を示している。質問がこの点に及ぶと、コラチ准将はコメントを一切拒否した。
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#88 - 2016-06-17 16:15:02 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
サーペンティス系造船所への攻撃を確認
2016-06-17 12:29 スコープ、アルトン・ハヴェリ

(画像…惑星上空で爆散する施設)

ファウンテン発-サーペンティスプライム7低軌道上のガーディアンエンジェル主力艦造船所が攻撃を受けたとする風聞について、スコープはこの情報が事実だと確認した。

数時間前、ソリチュード、エラーレ・コンステレーションの連邦海軍トリップワイヤ前哨基地が大量の救難信号を傍受し、事件の第一報がもたらされた。だが、詳しい状況が判明したのは、現地の映像が届きはじめた1時間ほど前からだ。

スコープが入手したホロリール映像には、煙を吐きながら燃える残骸が惑星(サーペンティスプライム7と同定)にむけて落下していく様子がはっきりと写っている。さらに、攻撃を受けた低軌道上造船所は、サーペンティス社が開発を進めている新型主力艦のプロトタイプを建造中だったことも分かっている。

報告によれば、正体不明の襲撃者たちは密かにサーペンティス社の本社星系に侵入し、複数の強襲部隊で造船所を攻撃した。造船所は爆破されて壊滅的な損害を被った上、軌道が不安定化したことで惑星の大気圏に突入し、完全に破壊された模様だ。

造船所の残骸が惑星地表に達したとの報告は入っていないが、傍受した強襲部隊の通信を解読した結果、襲撃者たちが相当量の機材とブループリントを強奪したことが判明した。その中には、「ヴィエメント」という艦船のブループリントも含まれている。

事件に前後して、ソリチュードでインタラ・ダイレクトアクション社の社章をもつ艦船が目撃されたとの情報もあるが、指令執行局と連邦情報局はコメントを拒否している。
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#89 - 2016-06-22 06:52:15 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
インナーサークルがアップウェルを批判…サーペンティス社への攻撃について
2016-06-21 18:07 スコープ、リナ・アンバー

ユーライ発-きょう開催された星間安全保障会議、インナーサークル公開協議の席上で、アップウェル・コンソーシアムは激しい非難の的となった。

CONCORDにおいてジョヴ帝国の地位を継いでいる上級指導者マツィ・ライシュは、意識的思考学会を代表し、先日のサーペンティス社に対する攻撃へ疑問を投げかけた。この件ではアップウェル・コンソーシアムが大量のブループリントや研究用機材、建造用部品を奪取したことが明らかになっており、彼らの意図は適切なものだったかどうかが取り沙汰されている。

サーペンティス社への攻撃はインタラ・ダイレクトアクション社とオストラコン・エージェンシーによって実行されたと考えられており、彼らの主要目標はサーペンティス系列の造船所だった。この造船所はガレンテ系主力艦とよく似た新造艦を建造中だったと言われている。

アップウェルへの非難のなかで、ライシュは他の4大国のインナーサークル代表からも支持を引き出すことに成功した。彼はアップウェルが入手したすべての物品を指令執行局へ引き渡すよう求め、この要請が受け入れられない場合、アップウェルとその提携企業に対する経済制裁を提案すると発言した。

協議終了後に詰めかけた取材陣に対し、マツィ・ライシュは先の発言を繰り返してコメントを拒否した。インナーサークル会議室を出た他の4大国代表も、同様にコメントを拒否している。
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#90 - 2016-06-23 13:55:09 UTC
『怒りの袖章』制定…連盟自由軍の大勝利を記念
2016-06-22 21:16 スコープ、アルトン・ハヴェリ

マター(パター4)発-サンマター・マレアツ・シャコールは、アマー・ミンマター国境地帯での攻勢に参加した連盟自由軍兵士数千名を対象に、特別従軍記章を授与した。

YC118年6月19日、ゲブラディ、ラー、シレクル、ビメイニの4個星系が攻略され、アマー義勇軍の最後の抵抗が潰えた。これは、わずか1週間のあいだに30個以上の星系を陥落せしめた、ミンマター義勇軍による電撃作戦の総仕上げとも言うべき攻撃だった。

惑星マターのグランド・キャラバンサライでは特別式典が催され、サンマター・シャコールが演説を行った。サンマターはいまだ奴隷として囚われている同胞を解放するための更なる闘争を呼びかけるとともに、ブリークランド、ディボイド、ヘイマター、そしてメトロポリスにまたがる戦域を制圧した、義勇軍兵士たちの戦功に惜しみない賛辞を贈った。

共和国部族会議の部族長たちを前にして、サンマターが読みあげた勲記は以下のとおり。
「いったい何度試みれば、敵はミンマターの人民を鎖につないでおくことなど出来ないと学ぶのか? 我々は怯えぬ。逃げ出しもせぬ。幾度でも立ち上がり、奪われたものを取り戻し、自由の雄叫びをあげるのだ! 貴官が所属する連盟自由軍は彼奴らを叩きのめし、馬鹿げた圧政の報いを受けさせてやった。その功を称え、7部族とミンマター共和国を代表して、私はここに『怒りの袖章』を授ける」

ミンマター軍が戦域全体を制圧したのは今回が初めてのことだが、現状がいつまで続くかは定かでない。義勇兵戦争権限法で想定されている限定戦争では、しばしばカプセラが「振り子の戦争」と呼ぶように、戦況の優劣は交戦国の運勢に左右されているようなものなのだ。
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#91 - 2016-06-24 18:04:17 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
サーペンティス社からの回収品引き渡しをめぐり、アップウェルにさらなる圧力
2016-06-23 21:17 スコープ、アルトン・ハヴェリ

ユーライ発-ガレンテ連邦とミンマター共和国は、指令執行局のアップウェル・コンソーシアムに対する命令を正式に支持する意思を表明した。先週にかけて実施されたサーペンティス社への攻撃に関して、アップウェルが民間軍事企業を通じてブループリントや研究用機材などを入手した事実が明らかになり、今朝、指令執行局はこれらの引き渡しを命じていた。

火曜日に行われたインナーサークル公開協議に続いて、今朝は公聴会が開催された。連邦情報局メンタス・ブラーク局長は各国代表の前で発言し、サーペンティス社とエンジェルカルテルが「我が国および同盟国たるミンマター共和国にとって、安全保障上の最大級の脅威」だとして、ガレンテ連邦の立場を改めて強調した。

その後、ブラーク局長はアップウェル・コンソーシアムとその提携企業を対象とした、CONCORD提案の経済制裁を支援するとも語った。
「優先されるべきはガレンテ国民の平和と安全であり、連邦政府は星間安全保障問題を極めて深刻に受け止めています。我々は民間企業から成る利益追求団体が敵の能力に関する情報を独占し、ガレンテ国民の安全をないがしろにするのを傍観するわけにはいきません。この種の情報は、潜在的な攻撃に備え、国境地帯の防衛を強化するために絶対不可欠であります」

共和国保安局メトロポリス作戦部のガーン・エグナイ部長もブラーク局長に続いて、ミンマター共和国の立場を明らかにしつつ、更なる支援を明言した。
「共和国艦隊ならびに共和国保安局は以前よりエンジェルカルテルと砲火を交えており、この敵の同盟勢力、すなわちサーペンティス社とも交戦しています。ニューエデンの主権国家の安全保障を脅かす情報が、利益を第一とする組織によって私的に独占されるなどあってはならないことです」

エグナイ部長の発言の終わりに、ブラーク局長は机を拳で打って賛意を示した。だが、アップウェルと提携している自国企業と、国内で営業している非ガレンテ系アップウェル提携企業への経済制裁をガレンテ元老院が認めるかどうかは、いまだ明らかではない。

カルダリ連合とアマー帝国のインナーサークル代表は、一旦は経済制裁について了解し、同意したものの、アップウェル・コンソーシアムとその提携企業に対する制裁を支援するかどうかは正式に回答していない。

スコープ・ネットワークは本件についてアップウェル・コンソーシアムに取材を試みたが、現時点ではコメントを得られていない。
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#92 - 2016-06-30 15:29:40 UTC
CONCORDとアップウェルが技術共有協定を締結、スコープ・ネットワークは仲介役を務める
2016-06-27 16:59 インペタス、セレーネ・デュポンテ

オルボア発-CONCORDとアップウェル・コンソーシアムが技術共有協定を締結し、アップウェルはサーペンティス社の造船施設から入手した技術を提供することに合意した。注目すべきはスコープ・ネットワークがこの協定において果たす役割で、同社はCONCORDやアップウェルその他の利害関係者に代わり、仲介役、ブローカーとして機能するよう求められている。

技術共有協定が合意にこぎつけたのは、FTL通信王にしてスコープ創業者でもあるルス・シャボルと、スコープ社の大株主、セステル・アンバーによる常ならぬ介入の結果だと言われている。協議はオルボア5第1衛星軌道上のスコープ本社で行われ、アップウェル側からはヤニ・サー・アテュー会長とラース・アン・ラモン局長が、インナーサークル側からはSoCT代表マツィ・ライシュとガレンテ連邦代表デヴァン・マレートが出席した模様だ。

独立放送ライセンスを付与されているスコープ・ネットワークは、この協定でも大きな存在感を放っている。今回、スコープ社は各国と巨大企業、そして独立系カプセラの間で、情報、任務、技術を仲介する役目を与えられた。

ルス・シャボルは滅多に人前に姿を現さないが、ガレンテFTL通信業界の主要プロバイダー、セミオティック・スーパールミナール社を所有しており、スコープ・ネットワークの支配的持ち分も保持し続けている。セステル・アンバーはハイテク、メディア分野への投資の第一人者として有名で、彼女はスコープ社の将来に深い関心を抱いているようだ。これについては、セステル・アンバーの姪、リナ・アンバーがスコープ社に勤務していることも影響しているかもしれない。

CONCORDとアップウェル・コンソーシアムは簡単な声明を発表し、技術共有協定の大まかな内容を明かした。スコープ・ネットワークもGalNetのFTL通信システムに対するアクセス権を利用して、さっそく仲介業務を開始するだろう。
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#93 - 2016-06-30 16:57:46 UTC
スコープニュース – アップウェル・コンソーシアムがサーペンティス社の資産をCONCORDへ引き渡す
2016-06-29

サーペンティス社が開発した主力艦の全貌が明らかになり、全ニューエデンの軍事関係者に波紋が広がっています。

同社のヴィエメント級攻城艦、ヴェンデッタ級大型艦載機母艦、ヴァンキッシャー級タイタンは連邦海軍の設計をもとにしながら、オリジナルのガレンテ艦を上回る火力を実現しました。さらに、これらの艦には高度なステイシスウェビファイアー技術が導入され、ハイブリッド兵器への最適化も施されています。

悪名高き犯罪組織であるサーペンティス社は、自分たちに貢献したカプセラへ新型主力艦のブループリントを提供する予定でした。しかし、同社の造船所が特定されて襲撃を受けたため、計画の延期を余儀なくされている状況です。

今日、スコープ・ネットワークの広域放送システムの支援を受けて、CONCORDがサーペンティス社の造船所の位置を公開しました。造船所を攻撃して入手できるあらゆる機器や建材は、各カプセラが自由に処理することを認められています。また、サーペンティス社に属する特定の艦船・施設を破壊した場合、CONCORDからスコープ・ネットワークを通じて様々な報酬が提供されます。この報酬にはサーペンティス社から回収された最新のブループリントも含まれているとのことです。

スコープよりアルトン・ハヴェリがお送りしました。

ヘッドラインニュース
・アップウェル・コンソーシアムがスコープ、CONCORDとの協定締結に合意。各方面からの批判収まり始める。
・パター・ツインホーンズがミエズ・ライオンズを21-12で下す番狂わせ。星間グラブボール選手権準々決勝へ進出。
・スコープ創業者ルス・シャボルが約16年ぶりに公の場へ。アップウェル・コンソーシアムとCONCORDの協定締結に賛意を示す。
・プロペル・ダイナミクス社がスポンサーを務めるハイイアンが、タグシー亜光速レースリーグで優勝宣言。前回優勝チームのキモトロ・ウィンドに70ポイントの大差。
・ガレンテの軍事専門家はサーペンティス社の新型艦が国境地帯における脅威だと認識。
・サーペンティス社とエンジェルカルテルの多数の艦船が…
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#94 - 2016-07-01 16:58:29 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
CONCORDがサーペンティス社施設の位置を公開…アップウェルから情報提供
2016-06-29 20:03 スコープ、リナ・アンバー

ユーライ発-CONCORDはスコープ・ネットワークの広域放送システムを通じて、ニューエデン全域に点在するサーペンティス社の主要施設の位置を公開した。公開された座標の数は数千箇所に上る。

スコープ・ネットワークが独立放送ライセンスを付与されたのは数週間前のことだが、今ではスコープを介して提示された報酬を求め、ニューエデン各地の独立系カプセラが競ってネットワークへアクセスしている。報酬には回収されたサーペンティス社の資産も含まれており、同社との戦いにパイロットを動員するための見返りとして転用されている。

スコープ・ネットワークの最新の放送チャンネルは本日11:41(ニューエデン標準時)にオンラインとなり、カプセラのNeocomへ送信を開始した。放送開始に際して、CONCORDはサーペンティス社施設から回収される資産、ブループリント、その他機器について改めて言及し、これらは最初に所有権を確立したパイロットが自由に処理できるものだとした。

DEDジェネシス艦隊司令官のオド・コラチ准将は現状に関して、次のようなコメントを発表している。
「カプセラ間の戦闘に関するCONCORDのあらゆる標準的法令は、これらの空間でも遺漏なく適用される。我々は好き勝手に暴れろと言っているわけではない。これはCONCORDが非合法勢力と見なす組織の違法設備を対象とした、制御された制裁処分である」

「我々は当該宙域に多数のサーペンティス艦が集結していることを確認している。サーペンティス社の施設の周辺では、細心の注意を払って行動するよう指令執行局は勧告する」

コラチ准将は報酬の支払いについて、その責任はスコープに帰するものとして、DEDが一切責任を負っていないことを正式に宣言し、コメントの締めくくりとした。
「敵性資産の破壊に対する報酬支払いは、スコープ・ネットワークが全責任を負っているはずだ。ユーライ協定に基づき、民間企業、独立機関が私的な軍事契約を交わしているにすぎない」

現時点で、既に1万名以上のカプセラがスコープ・ネットワークと軍事契約を結んだと言われている。
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#95 - 2016-07-02 14:10:08 UTC
穏やかな歩み(Soft Passage)

夜も遅く、その日のステーションは寒かった。大気ジェネレーターが寒さを和らげているが、それでも空気は冷たく、ひんやりとしている。もう秋がすぐそこまで迫っているのだ。動き続ける送風機は、人々にコートやスカーフ、帽子を身につけさせた。過ぎゆく時を感じるため、ステーションの住人は季節を必要としていた。

2人の若いカップル、サタヤンとトレタは手をつないでステーションで一番にぎやかな商業街を歩きながら、空想をめぐらせてウィンドウショッピングを楽しんでいた。2人とも良い職についている。サタヤンは健康器具の販売会社で働いていて、最近のバイラルマーケティングの大失敗を受けて更新された、透明性の高い広告キャンペーンを手がけていた。トレタは交通機関の経理部で、特に乗客のモニタリングや料金の計算を仕事にしていた。彼らが結婚式を挙げるまで、あと数週間だった。

サタヤンとトレタは旅行代理店の前で立ち止まり、窓に埋めこまれた大型平面スクリーンの広告を眺めた。モーションセンサーが2人の存在を感知し、スクロールしていた広告が自動的に減速する。スクリーンの端は低速回線のシンプルな画像を映し、濃い青から暗赤色まで様々な光が輝いている。それぞれの色が、旅行に求める興奮と冒険の種類を示しているというわけだ。サタヤンは赤色の端に手を伸ばしたが、すぐにトレタが少し落ちついた色の前で手を降った。

「お邪魔虫め」とサタヤン。

「そう言うあなたは、お馬鹿さん」トレタがからかうように言って、彼にキスした。

スクリーンに様々な旅行プランの画像が表示された。宇宙空間と惑星上のどちらも揃っているが、サタヤンは「星に降りるやつは高すぎるね」と言って却下した。

「それに大げさね」トレタも付け加えた。「これ見てよ。ルミネールでサファリですって?」

サタヤンはそれをちらっと見て微笑んだ。「実は前に行ったことがあるんだ。どの星だい?」そこまで言って、トレタの表情に気がついた。「いや、その、ハネムーンを野生動物に囲まれて過ごしたい人なんているのかなぁ」

トレタがわざとらしく咳きこんだ。

「なんていうか、昔の話だよ」サタヤンにそう言われて、トレタも笑ってしまった。

サタヤンが次の画像に目を移す。「次のやつを見てみよう。これは…」彼は画面をじっと見つめた。「冗談だろ? 『歴史あるアマーの宮殿に1週間滞在』だって?」

「私好みだわ。でも、これに行く余裕があると思う?」トレタが尋ねた。

「もしあったとしても、僕は行きたくないね」

「このままだと騒ぐのも何かを見にいくのも無しって感じになりそう。2つの真ん中が良さそうね」

「それがいい。完璧だ」サタヤンはそう返して、彼女にキスした。

「私たち、これからどんな風になっていくのかしら」

「今までと同じさ」サタヤンは答えた。「良くなる一方だよ」

トレタは微笑んで、近くの店に視線を移すと、ショーウィンドウを指差しながら声を上げた。「ね、見て! あのフードミキサーとっても良いと思わない? あなたの1日の始まりにぴったりだわ」

サタヤンの返事ははっきりしなかった。

「ほら、ちょっと見て」トレタはそう言いながら、彼をショーウィンドウの前まで引っ張っていった。「あなたは朝から食欲がなかったし、牛乳さえ飲まなかったじゃない。でもお医者さんは朝ごはんを食べなさいって。こういうのを買うか、お粥でも作るしかないなって思ってたの」

「トレタ、この手の機械は死人が飛び起きるくらいうるさいじゃないか」

「別に気にしない。こっちも見て、まだ色んなものがあるんだから! アラーム付きクロノメーターとか、他のミキサーとか、等辺パン切り、EMP調理器、洗濯用マイクロボット…あっ、あれって自動洗浄型コーヒーメーカー…イオンストーブ、ホロビューワー、保冷型チーズプレート、ハイテク枕…それに木製の家具まであるわ」

「目玉が飛び出るくらい高いよ」

「でもアンティークスタイルだから当然でしょ」トレタが当たり前だと言わんばかりに応じた。

「買ってもいいけどさ。もし買ったら、たぶん僕はローンのおかげですごく老けこむと思う」

「あらあら」トレタが言った。「そんなこと…あれ何?」

何か小さな、機械的なうなり声をあげる物が2人のそばを通り過ぎ、後に続いて突風めいた人影がトレタにぶつかった。その人影もそのまま通り過ぎようとしたが、サタヤンが腰を落とし、男の子のシャツを掴んで引き止めた。「おい、おい、おい! そんなに走ってどこに行くんだ、坊や?」

男の子は一瞬驚いた表情を見せたが、次の瞬間にはにっこり笑っていた。「あれ、ぼくのドローンなんだ」そう言って指差した先に、2人を追いこしていった小さな機械があった。それは確かに小さなドローンで、今は近くのゴミ箱のまわりをぐるぐる飛び回っている。

「君の名前は?」サタヤンが尋ねた。

「ダッピー」

「よし、ダッピー、人にぶつかるっていうのは礼儀正しいことじゃないのは分かるな。ぶつかってしまったらどうすればいいんだ?」

「ごめんなさい」ダッピーは謝りながらにやにや笑った。

「謝る相手は僕じゃない」サタヤンはそう言いながらも、笑いをこらえきれずに言った。「こちらにいらっしゃるレディーに謝るんだ」

ダッピーはトレタのほうを向き、相変わらず笑いながら、「ごめんなさい、レディー」

トレタは頷いて謝罪を受け入れたが、サタヤンのほうを見て、声を出さずに口だけ動かした。(レディーですって?)

「捕まえるの手伝ってくれる?」まだゴミ箱のまわりを飛んでいるドローンを指差しながら、ダッピーが言った。「速くセットしすぎちゃった」

トレタはぶつかられた場所が少し痛むような様子で、サタヤンに囁いた。「あの子が走ってくるの、ちっとも見えなかった」

サタヤンは「まぁ、少なくとも今はここで大人しくしてるよ」と囁き返すと、男の子のドローンを捕まえるために歩いていった。ドローンは何度か彼の手をかいくぐって逃げたが、最後は捕まった。サタヤンはドローンの速度を調整し、ダッピーに返してやりながら、「ほら。もうあんなに走るんじゃないぞ。落ちついて遊べよ」

「ありがとう」ダッピーは礼を言うやいなや、すぐにまた駆け出していった。

サタヤンはやれやれと頭を振った。そのとき、彼が立っている場所から、たまたま近くの店のショーウィンドウが目に入った。トレタの位置からはまだ見えていないその店は、電話を売っていた。ただの電話ではなく、ステーション間通信用の電話だ。星系内で通話できればよいのか、あるいは他の星系でも使えなければならないのか、値段は性能によって全然違う。星系内レベルの電話でも鮮明でクリアな会話が可能だが、星系を離れればどんどんラグがひどくなり、よほど高価な機種でもないかぎり、通信内容に歪みや乱れが生じてくる。そんな悩みと無縁なのは、より高度な技術に自由にアクセスできるカプセラくらいだ。

「こういうもの、必要になるんじゃないかな」サタヤンが言った。

トレタはサタヤンに近づき、ショーウィンドウを覗きこんで首を横に振った。「今度は私がノーって言う番よ。高すぎるわ」

「頼むよ。もし僕がステーションを離れたらどうするんだい?」

「その時は、録音とか録画を送るわよ。皆と同じように通信所を…コムブースを使ってもいいわ」

「でも…」

トレタはまっすぐ彼と向きあった。「本当に高すぎるの、サタヤン。家具や家電を買うお金がないなら、こういうものを買うお金もないはずでしょ」

「問題が違うじゃないか、分かってくれよ」

「分かってないのはあなたの方でしょ。私が欲しがるものには何でもケチをつけるのに、自分の欲しいものは同じように考えようとしないんだから。嫌になるわ」トレタはうんざりしたように両手を上げた。「でも、そうねぇ、電話を持たせておくのも悪くないかも。あなたが遠くにいたって、きっちり見張っておけるから」

「ああ、そうさ」サタヤンが言い返した。「君の言うとおり、僕は信用できない男だ。次に目に入った女とベッドに飛びこんでもおかしくない」

「そうなっても私には知りようがないわけね。今の私には、あなたがサリとそういう関係でいてもおかしくないとしか言えないんだし」

「はっ…」サタヤンは鼻で笑った。「そう遠いことじゃないかもな」

「ちょっと! サリは私の一番の友だちなのよ。そんな風に言わないで」

サタヤンはトレタの体に腕をまわし、彼女の額にキスをした。「…ごめんよ、トレタ。もし君がいてくれなかったら、僕は間違いなくサリと付き合ってた。これでいいかい?」

トレタは彼の鼻をちょんと突っつき、それからキスし返した。「本当にお馬鹿さんなんだから…」そしてサタヤンの腕をほどき、将来の心配事を頭から追いやって、再び歩きはじめた。

サタヤンはその場に残り、電話が飾られたショーウィンドウを見つめた。本当は何を見ているわけでもないのに。そしてトレタの後を追い、しっかりと彼女と手をつないで、一緒に歩いていった。

***

今度は通りの向かい側でトレタの視線が捕まった。彼女は通りを渡り、サタヤンも続いた。

「見て、これ」彼女はショーウィンドウを指し示しながら言った。そこは幼児用の衣料品店だった。トレタが大きく目を見開く一方、サタヤンはまるで銃でも突きつけられたかのように手をかざしながら、大げさに後ずさった。

トレタは笑った。「こっち来てよ」そう言いながらショーウィンドウを覗きこむ。ディスプレイにはジャンプスーツから靴まで、何でも揃っていた。売り出し文句によれば、靴のほうは訳あり品につき割引価格だ。

サタヤンはそんなものを見るのも嫌だったが、とにかく会話には付き合うことにした。「あぁ、確かに安いね」

「うーん…ちょっと気に入らないわね。今にも破れちゃいそう」言いながら、トレタは靴に顔を近づけた。「なんだか前に誰かに履かれてたみたい」

「トレタ、それ赤ちゃん用の靴、それも売り物なんだよ」サタヤンは言った。「きっと誰も履いちゃいないさ」

トレタはぶるっと体を震わせ、そこから離れた。

サタヤンも歩きだしたが、空気がますます冷たくなっていることに気がついた。そろそろ家に帰らなければならない時間だ。彼はすぐ近くでホットドリンクや食べものを売っている露天を見つけ、トレタをそこへ連れていった。揚げものの脂っこい匂いはあまり食欲を刺激しなかったので、2人は飲みものを注文した。サタヤンは温かいスープを。トレタは泡の多いコーヒーを。特に意味もなく、サトヤンは空いているほうの手をトレタの腰にまわし、彼女を強く抱き寄せた。トレタも同じようにした。2人の背後では、ベビーシューズがぽつんと棚に残っていた。

買ったものを飲み終えると、サタヤンとトレタはプラスチックカップを露天のゴミ箱に放りこみ、さらに先へと歩きはじめた。次にトレタが立ち止まった店は保険屋だったが、サタヤンは1つ次のファーストフード店まで進んでいた。

トレタは掲示されている保険料を見ながら考えこんでいる様子だったが、やっと口を開くと、「どう言えばいいのかしら…こういうのが高すぎるって言いたいわけじゃないだけど。でも、なんだか…」

「うん、君の言いたいことは分かるよ」サタヤンもそう答えて、2人とも保険の話は忘れることにした。まるで黒ずんだマッチを暗がりへ捨てるように。

しばらく歩いたあと、サタヤンが突然言った。「実際、家具を買うのもいいかもしれないね」

トレタは驚いたように彼を見つめた。「本気で言ってるの?」

「それに、カーテンも何枚か」サタヤンはトレタを見つめ返した。「そうしちゃならない理由なんてないさ。家を買おうと考えたら、どうして買っちゃいけないんだ? 仕事から帰ったら素敵な我が家が待ってるってのは、悪くない。温かい部屋、馴染みの香り、見慣れた照明、スクリーンに映った暖炉。そして君がいる」

トレタは少し強くサタヤンの手を握り返した。

「世の中のことをいつも小難しく考える必要なんてない」サタヤンは言った。

「そうね。それに、私たち自身のことも」トレタは言った。

2人が公園までやって来ると、風が木々のあいだを吹き抜けていった。葉は枝を残し、一斉に散っていく。それでも木は番人のようにそこに立ち続ける。葉や地に落ちた種は、木が過去と未来にわたってそこにあり続けることを疑いもしない。

次の旅行代理店までやって来ると、どちらともなく歩く速さを落とした。サタヤンはセンサーの前に手をかざし、青色の端でゆっくり手を振る。肌寒い風が吹きわたり、木々が葉や種を落とす秋なのだ。どこか温かい星で、静かにリラックスした休暇を過ごすのも悪くない。

サタヤンとトレタはお互いを見つめ、公園へと入っていった。もう夜も更けて、家に帰るべき時間が訪れている。2人は手と手をつないで最後の散歩を楽しんだ。2人の姿が見えなくなると、落ち葉が彼らの歩いた道を覆い隠した。
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#96 - 2016-07-10 13:15:39 UTC
聖なる館(Houses of the Holy)

[img]https://web.ccpgamescdn.com/communityassets/img/chronicles/chronicleImage/hoth.jpg[/img]

目が覚めたとき、私たちは地下深くにいた。彼らは私を縛りあげて棒にくくりつけ、巨大な繭のようにして運んでいる。何一つ身につけていない体にロープがこすれ、痛くて仕方なかった。

腕と足は少しも動かせなかったが、頭を動かすことはできた。道の両側の壁は松明で照らされ、一行の歩みとともに炎が揺らめく。私は前も後ろも現地人に固められながら、おそらく神殿に連れて行かれるのだろうと思った。

自分以外の仲間は誰も運ばれていない。私の番が最後だった。

***

私たちはある企業のラウンジに座っていた。この企業は今回の雇い主だが、私たちがここにいることは彼らの記録にも記憶にも残らない。自分たちのような人間には日常茶飯事だ。これから企業のエージェント達が私たちの身元や動機を調べあげるだろう。このささやかなホワイトカラーの歓迎会で気に入られれば、やっと詳しい話を聞かせてもらえる。もし歓迎会で追い返されれば、その時はどうにかやっていくさ。

どこか別の部屋でも似たような話が進んでいるのかもしれないが、私たちが通されたのは…数時間は待ったと思う…素晴らしい眺めと大量の壁面スクリーンを備えただだっ広い部屋だった。部屋の真ん中には宇宙船の偏頭痛か何かを題材にしたとしか思えないワイヤーアートがある。もしかすると、雇い主は私たちをちょっとでも感動させようとしてここに連れてきたのだろうか。仕事に臨むための連帯感とか、そんな感じのものを持たせようとして。だとしたら面白い連中だ。

彼らの名誉のために言っておくが、エージェント達は時間を無駄にはしなかった。何についても単刀直入、ずばずば切り込んできた。質問タイムが終わると、エージェント達が部屋から出て行き、かわりに別のエージェントが1人だけ入ってきた。長身で痩せていて、格好もばっちり決まっている。その男は席につくと、スクリーンの電源を入れ、色々な画像を映しだした。

男によると、自分たちの雇い主のミンマター系企業はローセクに関心があるということだった。戦争が始まって規制が緩和されたおかげで、一儲けするチャンスが巡ってきたというわけだ。

エージェントは1つの画像を指差した。そこには緑がかった茶色の惑星が、アマーの国章とともに表示されていた。

「我々はこの惑星の調査を進めてきました。その結果、一部地域にハイテク製品の製造に必要な稀少鉱物が豊富に埋蔵されていることが判明しました。特にある谷の埋蔵量は極めて多く、谷の採掘事業を独占できれば、我が社が星系間企業へ成長できるほどなのです」

「俺は宇宙にいたんだがよ」シャルマースが唐突に言った。

「どうだった?」私は尋ねた。

「まったく人が多すぎるな」

私はニヤリと笑った。エージェントは咳をして言葉を続けた。「よって、我々はこの地域を制御下に置きたいと考えているのですが、1つだけ問題があります」

私は「現地人か」と応える。

エージェントは頷いた。「この惑星はアマー社会の一部です。しかし、アマー社会の基準からいっても、現地人の文明レベルは相当に遅れているらしい。誰もこの惑星に注目しようとせず、石器時代のまま捨て置かれています。彼らに関する情報はあまりありませんが、空撮画像で…」エージェントが手を振ると、惑星の画像がズームアップされ、地表の鳥瞰図になった。「現地人の正確な生活エリアが分かっています。こことここ、後はここにも石造りの建物が見えるでしょう。これが彼らの持つ全てです。ほとんどの建物が宗教的目的で建てられているようですが、より詳細な機能を特定できるだけの画像はありません」

「大した問題じゃないだろう?」私は尋ねた。「どうあれ、聖典片手に笑って訪ねるわけにはいかないんだから」

「現地人を殺害してはなりません」エージェントは深刻な口調で言った。「メディアや世論に噛みつかれては困りますから、経営陣は不必要な死者を出すことを固く禁じています。我が社が現地で事業を始めれば大きな注目を集めるでしょうが、そのとき現地人が我々の強欲のために家族を失ったなんて報じられたらどうなります。そういうことです。これは重要な問題なのです」

「そいつらを殺せないなら、」シャルマースが言った。「一体どうやって土地から追い出せばいいんだ? 相手が逃げだすよう祈りながら、聖典でも投げつければいいのか?」

「当たらずとも遠からず」エージェントは顔を小さく痙攣させて、こわばった笑みを浮かべた。「皆さんには彼らの神殿を爆破していただきたいのです」

***

エージェントの言い分はこうだ。私たちが主だった場所に爆発物を仕掛け、現地人に…私たちは彼らが無知な愚か者だと思いこんでいた。だが、自分たちのほうがもっと愚かだった…地震か神の見えざる手だとでも信じこませ、一切合財とともにどこかへ立ち退かせる。神殿が一夜にして崩れ去り、現地人が信仰の残骸を見つけるだけで、誰も傷つきはしない。その後、企業はお目当ての土地に拠点を築き、なんとかして現地人に取り入り、厄介事を一掃する。笑顔と聖典、そして何枚かの金貨で少しずつ土地を買い上げ、最後は資源の乏しい別の大陸に移住させるとか、そういう適当な方法で。

嫌な雰囲気は降下艇に乗る前から始まっていた。私たちは爆破地点から遠く離れた場所に降ろされ、目的地まで数日かけて歩かねばならないというのだ。おまけに、エージェントは私たちが横断する土地についてロクでもない情報を追加してきた。

「毒があります」エージェントはそう言った直後、すぐに付け加えた。「土を食べようとでも思わないかぎり、命に関わることはありません。しかし、我々が狙っているミネラルは、あなたが血液中に溶かしたいと思うようなものではないことも確かです。現地人もその影響を受けて少し…異常をきたしている可能性が。まぁ、皆さんの問題にはならないでしょうし、」再びこわばった笑み。「ひょっとしたら利用できるかもしれません。疲れきった人々が真夜中に耳を澄ませているはずもない。忍びこみ、爆弾を仕掛け、脱出するだけで任務完了です」

降下し、目的地にむけて丸一日歩いたあと、次のサプライズがやって来た。私たちは周辺に他の住人は存在しないと教えられていたが、その情報は正しかった。だが、自然の恵み豊かな場所であるにもかかわらず、谷の外には集落は存在しないとも言われていた。こちらは間違っていた。私たちは過去に誰かが暮らしていた跡のある、石造りの小さな廃墟を見つけたのだ。廃墟のなかには、ほとんど消えかかっていたものの、明らかに宗教的な名残りを残したものもあった。私たちは頭の上に屋根があることを喜び、そこで一夜を過ごしたが、私は石に刻まれたシンボルのおかげで頭痛に悩まされた。朝になってこの忌々しい場所を離れられるのが嬉しかったほどだ。

最後のサプライズは、すべてが破綻する前にエージェントの緊急連絡という形で訪れた。降下後はあらゆる通信を控えることになっていた…現地人ではなく、宇宙空間で通信が傍受される可能性を恐れた…ので、メッセージは短く、シンプルで、容赦ない内容だった。「追加情報。当地ハ極メテ危険。現地人ハ長期ノ汚染二曝サレテイル。幼児ノ死亡率極メテ高シ。意匠ハ『サニ・サビク派』ノ影響ヲ示ス。任務完了後ハ速ヤカ二離脱スベシ」

この連絡を受けた私たちは、現代社会の栄光にかけて、最も馬鹿げた感情で緊張を紛らわせた。つまり、それがどうしたと強がってみせたのである。

私たちは、まるで自分たちが見知った土地を歩いているかのように振る舞い始めた。まだ谷から遠く離れていたし、ハイテク機器は…本当に大した文明の利器だ…一切の熱源や動きを探知していなかったので、無造作に茂みを突っ切り、平気な顔をして道を進んだ。奴らが自分たちの接近を嗅ぎつけたり、待ち構えていようとは思いもしなかった。

罠にかかったとき、私には空しか見えなかった。私と仲間たちは一瞬でかなりの高さまで持ち上げられ、悲鳴を上げながら武器に手をかけたときには、もう地面に叩きつけられていた。肩から落ちたおかげで骨が首にめり込むのを感じたし、どこか近くから何かが砕ける嫌な音も聞こえた。一塊となって横たわり、網にがんじがらめにされながら、苦痛に身悶えしつつ慌てふためく私たち。自分の骨が折れた様子はなかったので仲間に声をかけたが、返事を聞く前に、まわりの壊れた容器…乾燥した木の皮で作られた、薄い袋のように見えた…から何かを噛み砕くような音が聞こえてきた。そして空気が鉄の臭いで満たされ、すべてが曖昧になり、目の前が真っ暗になった。
ISD Parrot
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#97 - 2016-07-10 13:31:20 UTC
私は説教の場に連れてこられた。そうとしか言いようがない。

私たちは現地人でいっぱいの広間にいた。奴らのほとんどは床の上であぐらをかいて座っている。群衆は2つに別れていて、私たちが座らされている場所から部屋の行き当たりまでは無人の道だった。かなり遠くに出口らしい扉が見えたが、それは部屋の片隅にあって、よくあるような壁の真ん中ではなかった。ここは扉とは反対側の壁際だが、より近い部屋の隅にも出入口がある。扉はなく、ビロードのカーテンで仕切られている。広間は群衆の足が触れあうほど混みあっているのに、その出入口の周りだけは空いているということは…嬉しくない出入口に違いない。

私は軽い目眩を感じながら、自分の最期が着々と近づいていることを理解した。

広間のほとんど全員が私たちを見つめていた。あぐらをかいているのは自分たちも同じだったが、こちらは両足の足首を一緒に縛られ、腕は背中の杭に結びつけられている。それでも杭の先端を見るくらいの自由はあった。木で出来ているし、鋭くもないが、尖っている。

おまけに、私たちは下着以外はすべて脱がされていた。

シャルマースは捕まった面々の端から私を見つめ、私はその表情から無言の感情を読み取った。まずい判断だ。まったく正しい行動ではない。ありとあらゆる細かいことに目をつけ、それに集中しておかなければ、パニックを起こして死ぬ羽目になる。

私たちの隣にはアマー国教のアマー人司祭でありながら、アマーとはまったく関係ない野郎が立っている。そいつのローブに描かれているシンボルは、数日前に泊まった廃墟と同じだった。司祭は器と取鍋を持ち、傍には宝石で飾られた金の大桶を従えていた。

1人また1人と、広場に集まっている人間たちが司祭のもとにやって来た。汚れてボロボロの体に、汚れたボロボロの服を着て。奴らは畏怖を示すようにゆっくりと前かがみで歩いてきては、仰々しくひれ伏していく。目には地面しか見えないだろうに、両手は頭上に掲げて何かを乞うている。私たちの場所は奴らの汚らしい姿がはっきり見えるほど近かったが、私の目に飛びこんできたのは、本来あるべき状態とはかけ離れた、おぞましく黒ずんだ血管だった。その手は暗がりに張られた蜘蛛の巣にしか見えない。これが毒に穢された結果か。

だが、司祭の手に異常はなく、健康そのものに見えた。司祭は大桶から何かを汲みとると、器を…それは聖杯として使われていた…侍者に渡し、侍者は中身をじっくりと飲みほした。

中身はワインではなかった。ワインであってくれと神々に祈ったが、ワインではなかった。

奴らはぞろぞろ歩いてきては、どいつもこいつも聖餐にありつくために祭壇へ飛びついた。幾つもの黒い手が聖杯に伸びる。小さい子どもを抱えてきて、司祭の手で飲ませてもらうために高々と掲げている奴もいた。

そして、私たちの番が回ってきた。司祭は聖杯を満たし、私たちのほうに近づいてくる。広間にはまだかなりの数が残っていて、視線で体に穴が空くんじゃないかと思うほど熱心にこっちを見つめていた。

司祭は最初に私のところへ来て、聖杯を差し出した。私はそれを拒み、というより中に何が入っているかを見ないようにするため、顔を背けた。鉄のような臭いが鼻をついた。

永遠とも思える数秒間、司祭は私の前に立っていた。だが、最後は隣の仲間へ移っていった。私たち全員が首を横に振り、聖杯に口をつけることを拒んだ。

シャルマースが最後だった。司祭に聖杯を勧められたシャルマースは、目を閉じ、ただ首を横に振った。離れたここからでも、彼の額で血管が脈打つのが見えた。司祭は背を向け、私はすべて終わったのだと思った。その瞬間、シャルマースはしわがれ声とともに鋭く息を吸いこみ、司祭の背中に唾を吐きかけた。

現地人どもが怒り狂って立ち上がり、こっちへ押し寄せてくるだろうと思った。が、現実には誰も動こうとしなかった。司祭はただ振り返り、シャルマースにむかって優しげな笑みを浮かべるだけだった。おかげでシャルマースはますます激昂し、自分を縛っている縄を引き裂こうと暴れまわった。私はシャルマースを落ちつけようと小声で呼びかけたが、彼は私を無視し、拘束を解くために無駄に体を揺らし続けた。

何の騒ぎも起きはしなかった。手に黒い蜘蛛の巣の入っていない健康そうな男たちが近寄ってくると、まるで機嫌の悪い子どもを抱き上げるように、暴れるシャルマースをあっさりと抱えあげた。奴らは悪態をつきながら叫ぶシャルマースを抱えたまま、近くの出入口から出ていった。あのビロードのカーテンをくぐって。

シャルマースの無事な姿を見たのはそれが最後だった。数分間は苦しそうな呻きと叫びが聞こえてきたが、何も見えなかった。あれを見るまでは。見てしまうまでは。

機械が動きはじめる金属的な轟音が響きわたり、刹那、カーテンの内側が眩しく光った。そのとき、私たちは見てしまったのだ。両腕を広げた姿で吊られ、命を吸いとる無数のチューブに絡みつかれている、シャルマースの黒い影を。

光は二度と灯らず、音はシャルマースが死ぬまで止まらなかった。

***

儀式のあと、奴らは私たちを置き去りにし、いつしか私は気を失ってしまった。気を取り戻したとき、私は広間ではないどこかへ移されていた。そこは灯りのない真っ暗な場所で、奴らも仲間もいなかった。私は意識と無意識のあいだを漂い、一度だけ誰かの名前を叫んで目覚めた。

時おり司祭がやって来て私に話しかけることもあった。本当に司祭だったのか、それとも脳内の狂った妄想だったのか、私には分からない。私はときどき叫び声をあげた。

そして最後に、私は屠殺される動物のように縛りあげられ、彼らに地下深くへと運ばれながら目を覚ました。

***

私たちは彼らの救い主を破壊しようとした。私たちは彼らの敵だ。だが、彼らは寛大だった。単純だが、優しかった。

彼らは生き延びる方法を見つけた。暗い微笑みを浮かべる神のみもと、闇に閉ざされた血塗れの村で、古き儀式から新しい道が生まれたのだ。

私の仲間たちは選択肢を与えられた。私の番が最後だった。彼らは私を地の底に、神殿のなかでも最も神聖な場所へと連れてきた。私は自分の体に目をやり、両手両足をじっと見つめる。肉体は疲労に蝕まれて弱りきり、揺らめく松明の灯りのなかでは、私の血管は既に黒ずんでいるような気がしてくる。

着いた場所は、戦艦が丸ごと1隻収まるほど広大な、暗闇に包まれた洞窟だった。彼らと私は高い崖の上に立ち、眼下にはゴツゴツした岩に囲まれた谷が広がっている。そこでは何百もの灯りが輝いていて、はじめ私はそれを松明だと思っていたが、やがて1つ1つが焚き火なのだと分かった。一体どれほどの人間が谷にいるのか、見当もつかない。

離れたところには恐ろしく巨大な建物があり、頂上は洞窟の天井に届きそうなほど高い。それは青銅色と赤色のカプセルのような形で、血管か、艶のない新生児の髪の毛のような、金属製のケーブルに覆われている。これが彼らにとって最も神聖な存在なのだろう。

任務が失敗に終わった以上、私と仲間たちは死んだも同然だ。この場所から助け出してくれる者はいない。仲間たちはそれを受け入れ、各々の考えに従ってこれからどうするかを選んだ。次は私が決断を下す番だ。

彼らの神殿、大いなる祭壇で、私は選ぶ。毒に食われてじわじわと死んでいくか、彼らの一員として長い生を全うするか。殉教者になるのか、侍者になるのか。

だが、私は既に知っていた。夢のなかで得た知識。司祭はあの赤い祭壇で私を歓迎し、生命の源で満たされた聖杯を差し出すだろう。この地の病を癒す清らかな薬、シャルマースの血を。
ISD Parrot
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#98 - 2016-07-14 15:41:01 UTC  |  Edited by: ISD Parrot
スコープ・ネットワークの仲介業が成功を見る
2016-07-12 16:00 インペタス、セレーネ・デュポンテ

ユーライ発-ニューエデン各地のカプセラがスコープ・ネットワークの新たな仲介業を利用している。この新事業はまだ始まったばかりだが、今のところ、カプセラ達の絶大な関心を引いているようだ。なかでもキレフ(Kirev)という名のカプセラは驚くべき働きぶりを見せ、48時間以内にスコープ・ネットワークから最上級の報酬を受け取ってしまった。

スコープ・ネットワークはこれから4週間は現在のサービスを継続すると予告しており、さらに多くの報酬を利用者へ提供するつもりだとしている。また、特に大きな功績を残した利用者には、通常の報酬に加えてBPCが贈られる予定だ。様々な組織を強力に支援し、契約を通じて最も多くのポイントを稼ぎ出したカプセラには、ヴェンデッタ級大型艦載機母艦やヴァンキッシャー級タイタンのBPCが贈呈される。

指令執行局の全面的な承認を得て、スコープ・ネットワークの仲介システムは数万の独立系カプセラのあいだで爆発的な人気を得た。工業用資源の採取から対海賊傭兵契約に至るまで、ポイントの付与対象はあらゆる分野に広がっている。

現時点で最も多くのポイントを獲得しているカプセラは以下のとおりだ。

アレン・アスクス(Alen Asques)
カマムドザヴァ・テケラヴァ(Kamamdzava Tekerava)
ビジネスウーマン(BUISNESSWOMAN)
ムラヴィエ・ヴィルピオ(muravey Virpio)
アルデリア・ブルメンタール(Ardellia Blumenthal)
フィトール(Phytor)
ダ・オパ(DaOpa)
ブレイキング・ファースト(Breaking Fast)
ヴラエル・ザン(Vrael Zann)
サンシュ・レコ(Sansh Leko)
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#99 - 2016-07-16 09:11:12 UTC
DEDがカプセラのサーペンティス社に対する戦いを賞賛
2016-07-14 16:46 スコープ、リナ・アンバー

ユーライ発-今日、ユーライ星系で行われた記者会見で、サーペンティス社関連施設攻略戦におけるカプセラの働きについて、DEDが初めて公式に言及した。

会見はサーペンティス社の戦力に対する最新の評価情報から始まった。CONCORDジェネシス艦隊司令官オド・コラチ准将は、サーペンティス社の主力艦開発計画を「星間安全保障における明白かつ現存する脅威」だと評し、「確立され、承認されたガレンテ連邦とミンマター共和国の国境線が深刻な危機に曝されている」と述べた。

また、准将はCONCORDインナーサクルと協議した結果、サーペンティス社とエンジェルカルテルの脅威評価を「重大」に引き上げるとした。これはサンシャ国に次ぐ脅威レベルだ。今回の決定には、一定期間の情報収集を経て、サーペンティス社の塗装が施された複数の主力艦が実際に確認されたことが影響していると思われる。

対サーペンティス戦におけるカプセラの働きについて質問されると、昨年、数名のカプセラに懸賞金をかけて以来、独立系カプセラに嫌悪感を抱いていると信じられてきたコラチ准将は、意外な答えを返した。
「この数週間、星団中のカプセラが敵性勢力との戦いを支援し、彼らの有用性を証明した」
そして、次のような言葉も付け加えた。
「スコープ・ネットワークの契約を通じて今回の戦いに参加したカプセラに対し、DEDは心から謝意を表する。今後もより多くの独立系パイロットの援護が得られることを期待する」

対サーペンティス戦に参加したカプセラへ与えられる報酬に関して、コラチ准将は「契約受諾者とスコープ・ネットワークのあいだで議論されるべき事柄」だとして、「標準的法令で制限されない物品については、DEDは何の指導も規制も行わない」と明言した。

今後数週間のうちに更に多くの独立系カプセラがスコープ・ネットワークからの報酬を求め、ますます多くの私的軍事契約が結ばれることが予想される。
ISD Parrot
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#100 - 2016-07-16 14:52:06 UTC
スコープ・ネットワークがポイントランキング上位カプセラを公開
2016-07-15 16:06 インペタス、セレーネ・デュポンテ

ユーライ発-顧客にかわって危険を冒そうとするカプセラ達が、スコープ・ネットワークの仲介業に魅了され続けている。スコープ・ネットワークは多くの契約を遂行したカプセラの名を公開しており、現在のポイントランキング上位10名は以下のとおり。

アレン・アスクス(Alen Asques)
ムラヴィエ・ヴィルピオ(muravey Virpio)
カマムドザヴァ・テケラヴァ(Kamamdzava Tekerava)
ビジネスウーマン(BUISNESSWOMAN)
ブレイキング・ファースト(Breaking Fast)
アルデリア・ブルメンタール(Ardellia Blumenthal)
ダ・オパ(DaOpa)
サンシュ・レコ(Sansh Leko)
ジャレン・エルダーウィング(Djaren Eldarwing)
ヴラエル・ザン(Vrael Zann)

スコープ・ネットワークの現在のサービスは今後数週間にわたって継続され、サービス終了時にポイントランキング上位10名へBPCが贈られる。各方面への貢献が認められた彼らに提供されるのは、それぞれ1回のみ利用可能な、5個のヴェンデッタ級大型艦載機母艦のBPCと5個のヴァンキッシャー級タイタンのBPCだ。

CONCORDはニューエデンの様々な組織について脅威レベルを再評価しているが、これがスコープ・ネットワークの協力を得て進められていることからも、彼らの新事業の有益さは明白だと言うべきだろう。DEDとスコープ・ネットワークの関係者は、FTL通信大手のセミオティック・スーパールミナール社と、スコープ社の主要株主、CONCORD、そしてガレンテ連邦当局が、スコープ・ネットワークの活動をより明確に定義するため、現在も協議を続けていると明かしている。